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ぎりぎりの時ほど、余裕をもって(とは思うものの) [本のはなし]

いよいよ引っ越しまであと1週間となって、
おかしなことに、まだ一週間、と思った。なんか脳が、回避的反応をしている。

今朝はなんと6時前の早朝覚醒。起きて、身の回りの荷物整理を始めた。頭はあたまはボーっとしたまま。

でも、このところおすすめブックの紹介が途切れているのが気になっていたので、
しなければいけない仕事に目をつぶって、今日は本の紹介やるぞ。

パオロ・ジョルダーノ著『素数たちの孤独』(ハヤカワ文庫)
ずいぶん前から気になっていて、hontoで電子書籍で購入していたのだが、すっかり忘れて本屋で文庫本を見つけてまた購入してしまった。
どうも家にいるとわざわざ電子書籍で読もうという気にならない。

この本の著者、ジョルダーノは、トリノ大学大学院の博士課程で素粒子物理学を専攻した院生だったときにこの本を執筆。
2008年にイタリアでベストセラーになった。ずいぶん前になる。
弱冠27歳で、イタリアの文学賞の最高峰、ストレーガ賞を受賞。
世界42か国で翻訳されているという。

さて、この物語の主人公はアリーチェとマッティアの二人。
章ごとに時代と主人公が違っていて、1,983年から24年後の2007年までの2人のエピソードが描かれる。
最初は、女の子のアリーチェ。
厳しい父親に、スキークラブに無理やり連れていかれて、身体が神経症的に反応してしまう。過敏性膀胱とか過敏性大腸のたぐい。
そのスキー場でアリーチェは事故に遭い、足にひどい障害を負う。

一方、男の子のマッティアは、優秀な成績の子どもなのだが、双子の妹ミケーラのほうは知的障害がある。ときどき、表情がなくなり、身体を奇妙に動かす癖がある。
2人は顔かたちはそっくりで、一緒の学校に通っているが、いつもミケーラは友達から気味悪がられ、嫌われる。
そんな妹がマッティアには疎ましい。
ある雪の日、マッティアは友達に誕生日パーティに誘われる。
妹も一緒に行くことになるのだが、嫌で嫌でたまらないマッティアは、行く途中に妹を置いてきぼりにしてしまう。
それっきり、妹の行方はわからなくなってしまった。

ということで、二人はそれぞれに心に深い傷を負ってしまうのである。
アリーチェは、学校で同級生にいじめにあい、マッティアは誰とも親しくならない、自傷癖をかかえた孤独な子どもになってしまうのだ。


それでも、マッティアは彼の数学の才能を認めた教師の勧めで、進学校に転校する。
自分の家族とは、階級も違う世界だ。

この二人が、あるとき出会い、互いに惹かれあうのだが、それ以上に親しくなれない。
この物語のタイトルにあるように、二人とも「素数」なのだ。
素数は、1より大きい自然数で、1とそれ自身以外の約数をもたない。
そういう孤独な存在。
しかも、素数は2,3,5,7,11…と続くが、2と3以外は、約数は隣り合って存在しない。
間に必ずいくつかの数字が挟まれるのだ。

アリーチェとマッティアもどこか傷をかかえた似たもの同士で、互いに惹かれあいながら
それ以上近づけないのだ。なんとも切ない。

前回紹介した韓国の『アーモンド』といい、この『素数たちの孤独』といい、心と身体に傷をかかえた子どもの成長というテーマの物語が、世界のあちこちで生まれて、人気を博しているというのは、現代社会の歪みを映し出していると言っていいのだろうか。

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