SSブログ

アーモンド [本のはなし]

ブログのアップが遅れると焦る。
このところ原稿の締め切りに追われて、毎日、PCの前に座っているのだけれど、
仕事はなかなかはかどらず、ついiPadで数独をやってしまう。

iPadの数独アプリは、マスにメモ機能がついてない。
1つのマスに2つ(ときに3つ)の数字が入る場合、
小さな文字でマスにメモしておくと、他のマスに入る数字が分かりやすいのだが、
メモができないので、いちいち覚えていなくてはならない。
結局、2つの数字のどっちかを、勘で選んでエイヤッと入れると、5割の確率で赤字がでる。
それでもう一つの数字を入れ直す・・・。
なにをいいたいかというと、無駄な時間を使っているということ。

で、ここからが、本題。

『アーモンド』という本(祥伝社)を紹介するんだった。
著者はソン・ウォンビンという韓国の女性作家。もともとは映画の脚本や演出を専門とする人らしい。

前にも紹介した、チョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』も、
韓国の女性の歴史の流れを小説の中でファンタジー的要素も入れながら描きだし、
同時に社会に向けての主張が創作のなかにはっきりとあった。
この本も、似ていた。

『アーモンド』という変わったタイトルは、主人公の少年が生まれつき扁桃体が小さいために、痛みも苦しみも、喜怒哀楽も感じないアレキシサイミア(失感情症)という障害をもっていることから来ている。

扁桃体の扁桃はアーモンドの意。
記憶と情動反応をつかさどり、危険を察知したり、不安に反応したりする重要な脳の一部だ。形がアーモンドに似ているために、そう名付けられている。
最近の感情に関する心理学と脳科学の接点で、注目されている部位でもある。
それが、いち早く小説に取り入れられているなんて、それだけで驚き。
もっとも、その造形はおそらく創作によるものなのだろう。

そのユンジェ少年が母のお腹にいたときに、父親は事故で亡くなった。
以来、働きながら女手一つでユンジェを育てていた母は、研究のために治療を申し出てくれた専門家を断り、自分の息子がまわりから「変な子」とみられないよう、「ふつう」にふるまえるように、感情の言葉やただしい反応のしかたを必死に教え込む。
だが、なかなかうまくいかない。
それでやむなく、結婚した時に縁を切ったおばあちゃんのところに戻ることにする。

このおばあちゃん、なかなかの豪傑で、娘から孫の話を聞くや、「私の可愛い怪物」と言って無条件に受け入れる。

だが、ある日、母親とおばあちゃんが、「笑っているやつはみんな殺す!」と叫ぶ男に襲われ、ナイフで切り付けられる。おばあちゃんは即死。
病院に運ばれた母は昏睡状態になったまま目覚めない。

ここで、重要な登場人物が2人して消えてしまう(母は生きているが)のだが、
ここから母が開いた古書店を一人で守ることにしたユンジェの人生が大きく展開していくことになる。

まずは古書店の2階でパン屋を営むシム博士と呼ばれる初老の男性。母が生前からシム博士にいろいろと相談し、息子を頼むと言っていたという。
そして、店にやってきて、ユンジェに行方不明の息子のふりをして病気の妻に会ってくれというユン教授。
そして、その実の息子のゴニ。
さらに、古書店にやってきた運動の好きな女の子、ドラ。

ゴニは児童養護施設で育った後、養子にもらわれ、いくつもの学校を放校になり、しまいには少年院を出入りするようになった問題児。
ようやく本当の親であるユン教授と会って引き取られるのだが、その非行はおさまらない。
ユンジェにもいろいろと絡んで、手ひどくいじめるのだ。
だが、ユンジェが痛がりも怖がりもしないのを見て、ますますムキになるゴニ。

ゴニはどうしてユンジェが何にも反応せず、嫌がりもしないのか、わからない。
ユンジェはゴニがどうして自分を残酷に痛めつけようとするのか、わからない。

そして、徐々に物語は悲劇に向かっていく…。

この小説は、感情をかんじないというユンジェの視点で世界が描かれているので、
同調圧力の強い今の世の中の異様さ、残酷さが、逆に見えてくる。
「共感できない」ユンジェが発する問い「大部分の人は、共感すると言いながら簡単に忘れてしまうのはなぜ?」は、今の世の中をするどく指弾しているようだ。

そして、ユンジェもゴニもドラも、出てくる子どもたちは、「ふつう」からはみ出した子たちなのだ。
登場する大人たちも、みな、どこか傷ついていて孤独のなかにいる。

ユンジェとゴニは、正反対のように見えて、実は。
扁桃体は脳に左右2つあるのだ。

最後は息もつかず読んでしまった。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Zoom Fatigue久々の帚木蓬生さん ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。