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図書館が主人公? [本のはなし]

図書館好きにはたまらない小説を読んだ。
しかも、登場する舞台が谷根千などの文京区と上野の山周辺。
これまた、歩いていけるところばかりで、たまらない・・・・

中島京子さんの『夢見る帝国図書館』(文芸春秋)。
Facebookで中島さんのフォロアーになっているので、さん付けでないと。
去年の5月に出て、半年後の11月にはもう第7刷。
いろいろなところで書評にとりあげられているから、すでに読んだ方も多いと思われるが。

先日紹介した、『シリアの秘密図書館』など、けっこう図書館がテーマの本ってたくさんあって、見ると手に取って読んでみたくなる。
この本では、とうとう図書館が主人公になってしまった。

といっても、そう単純ではなくて、語り手(わたし)は作者自身のように思える小説家(最初はまだなってはいないが)なのだが、物語の主人公は喜和子さんという年配の女性。
上野公園のベンチで偶然出会ったところから、その物語は始まる。
全面開館した国際子ども図書館を取材した帰りだった。

上野の国際子ども図書館は、建物が素敵な図書館と聞いていたし、子ども図書館というのも魅力的でいつかは行ってみたいと思っていたが、いまだに訪れてはいない。
その図書館が、この物語のもう一人(?)の主人公なのだ。

喜和子さんは、短い白髪に端切れをはぎ合わせて作った、「クジャクのような奇妙奇天烈なコート」を身にまとっていた。コートの下には「茶色の、長い、頭陀袋めいたスカート」に、運動靴というスタイルそして、。

偶然となりに座った喜和子さんは、彼女の吸う煙草にむせてしまった「わたし」に、根津神社近くで買ったという金太郎飴をくれる。(地元の人間としては、もうたまらない)
昔に上野の図書館に住んでいたようなものだという。
そして、「わたし」が小説を書いているというと、喜和子さんは「あたしとおんなじ!」と握手を求めた。

こうして、奇妙なふたりの交流がはじまるのだが、
少しずつ語られる喜和子さんの人生は、戦争から戦後の日本という国の有為転変をそのまま映したようなものだった。
はたしてそれはほんとうのことなのか。
「図書館に住んでいたようなもの」という言葉の意味は?

私は知らなかったのだが、この図書館、かつては帝国図書館とよばれていたらしい。
その昔、日本が列強に伍して強くなろうとしていた時代に、西欧諸国にあるのような国立図書館を作りたいと情熱を燃やした人がいた。
そうした人々の奮闘の物語が、現代の物語の進行の合間に挿入されるのだ。
(なぜか歴史上の人物が現代の口語調でしゃべる!)
軍事費の膨張によって予算が削りに削られ、建設計画も途中で止まってしまったり、万博開催のために神田聖堂に移されたり…。
そのあたりは現在の国情とそっくりで、明治も戦前も今も変わらないことに、暗澹たるたる思いになる。

その転々とさせられた図書館には、幸田露伴や淡島寒月、尾崎紅葉、夏目漱石、森鴎外、徳富蘆花、島崎藤村、田山花袋といった、今では文豪と称されるそうそうたる作家たちが足しげく通っていた。
そういった作家たちの姿を、帝国図書館が証言するのである。
そして、中でも帝国図書館がもっとも愛したのは樋口一葉だった。 
それに、宮沢賢治まで登場する!

・・・というふうに、図書館の目撃談というかたちで日本文学史が語られていくのである。
もちろんそれは文学の歴史だけではなく、日本という国の歴史でもある。
その昔、徳川家菩提寺の上野の寛永寺は、今よりはるかに巨大な敷地をほこる寺で、彰義隊と新政府軍が闘った上野戦争以降も反体制的な人もふくめてさまざまな人が流れ込んで来た特異な土地柄であったこと。
戦後も上野の公園口あたりに、戦災で家を失くした人たちが集まって「葵部落」と呼ばれる巨大なバラック集落ができていて、自治会などもあったこと。
ところが、1960年頃に撤去されて、東京文化会館や国立西洋美術館が建ったこと。
それから間もなく東京オリンピックがあったのだ。

ちなみに、Wikipediaで「上野戦争」を調べてみると、今、住んでいる周辺の地名が次々に出てきて、驚いてしまう。外国人観光客でにぎあう谷根千周辺が戦場だったのだ。
この小説にも一部描かれているのだが、wikipediaの記事を紹介しよう。

5月15日(7月4日)、新政府軍側から宣戦布告がされ、午前7時頃に正門の黒門口(広小路周辺)や即門の団子坂、背面の谷中門で両軍は衝突した。戦闘は雨天の中行われ、北西の谷中方面では藍染川が増水していた。新政府軍は新式のスナイドル銃の操作に困惑するなどの不手際もあったが、加賀藩上屋敷(現在の東京大学構内)から不忍池を越えて佐賀藩のアームストロング砲や四斤山砲による砲撃を行った。彰義隊は東照宮付近に本営を設置し、山王台(西郷隆盛銅像付近)から応射した。西郷が指揮していた黒門口からの攻撃が防備を破ると彰義隊は寛永寺本堂へ退却するが、団子坂方面の新政府軍が防備を破って彰義隊本営の背後に回り込んだ。午後5時には戦闘は終結、彰義隊はほぼ全滅し、彰義隊の残党が根岸方面に敗走した。

あんまり、物語の中身を書いてしまうと、営業妨害になってしまうのでこれくらいにしておこう。
喜和子さんという人がどんな人だったのかという謎と、
帝国図書館の歴史と、1冊読んで2度楽しい、味わい深い小説なのである。


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コメント 3

nrktd

https://my.matterport.com/show/?m=ReR1TgkAyqc&brand=0
国際子とも図書館です。
読み込みに時間がかかりますが、見てみてください。
by nrktd (2020-06-30 09:16) 

fijifreak

凄い面白かった!
あの小説を読んでイメージした通り!
by fijifreak (2020-07-06 22:45) 

nrktd

それはよかった。
何回かに分けて建て増ししました。
私も途中までしか見ていません。
by nrktd (2020-07-07 10:58) 

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