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アイスランドの闇 [本のはなし]

4月から月10日勤務の契約となったので、毎日在宅しているのを在宅勤務といってよいのか悩むが。
3月の最終週から出勤していないから、もう4週間、ほぼ1ヶ月、家に閉じこもっていることになる。

といっても、ほぼ毎日食料品の買い出しに徒歩2分のスーパーに行っているから、自粛にならないのかも。
でも、野菜や果物、牛乳など、買い置きができないものは買い出しに行かざるを得ないし。
これで感染していたら、そして感染を広げていたら、世の中相当感染が広がっているということだろう。
毎朝、眼が覚めると熱っぽくはないか、体調はどうかと気になる。
ここ2、3日喉がいがらっぽいが、熱は5度台。
だるくもないし、嗅覚異常もない。大丈夫だろう(と自分に言い聞きかせる)。
その後、喉のいがいがはなくなった。

さて、今日のおすすめブックスは、久々の北欧ミステリ。
アイスランドの作家ラグナル・ヨナソンの『闇という名の娘』(小学館文庫)。
名前にソンがついているから男性だな。(親の名前に男だとソン、女性だとドッティルがつく)

アイスランドのミステリや映画は、やはりその極北の自然のせいか、独特の雰囲気がある。
さらに、この本が独特なのは、主人公が65歳で定年退職目前の女性警官だということだ。

ミステリでは退職寸前や退職した男性刑事や警官の物語はよくあるが、その年まで勤務した女性が主人公になるのは珍しい。
だが、日本よりはるかに女性の社会進出が進んでいると言われている北欧である。
日本とはだいぶ状況は違っているだろうと思いきや、働く女性が味わう昇進にあたってのガラスの天井だとか、セクハラだとかは、まったく同じだと言ってよい。
(私と同世代ということで、読んでいて身につまされる所も多い)

主人公のフルダ・ヘルマンドッティルは、そうした社会に対するうらみを抱えながら働いてきたが、
お世辞にも世渡りはうまくなかったのも事実。
年下の上司から、定年前に辞めるようにいわれたフルダは、最後の花を咲かせて見返そうと、未解決事件の解明に取り掛かる。
1年ほど前に起きたロシア人女性の溺死事件だ。
ロシアからつれられて来て、難民申請をしていたところだった。
きちんとした捜索はされないまま、自殺と断定されていた。
売春を目的とした人身売買か?

このあたり、ロシアと北欧諸国の第二次世界大戦時代からの複雑な関係を背景としていて、北欧らしい社会派ミステリーの様相を見せる。

一方、フルダの個人的な背景も、この小説のもう一つの柱である。
彼女の夫は心臓病で死に、一人娘も13歳のときに不慮の死を遂げていた。
未だにフルダは娘の死の痛手から回復していない。
悪夢にも悩まされている。

ただ、最近、フルダは70歳近い元医師ピェートゥルと付き合い始めた。
彼もまた妻を病で亡くしていた。
彼はフルダに親愛の情を示すが、無理に近づこうとするわけではない。
付き合いを進めたいが、親密な関係への恐れもある。

こういうストーリー展開になると、ついこの親切な男には何か裏があるのではないか、
騙されて、途中でとんでもない男だったとわかるのではないかと、つい深読みして読んでしまう。

だが、ロシア人女性の不審死の捜査の物語と
この人生の黄昏時を迎えた二人のロマンスの物語の合間、合間に
フルダの過去になにがあったのかを追想するエピソードと
誰かはわからないが若い男女のロマンスのエピソードが挿入される。

この男女は、知り合ったばかりで山歩きに出かける。
といってもアイスランドの山である。
人っ子一人いない山道を歩くにつれて雪が深くなり、寒さが増していく。
アイスランドの冬は昼でも薄暗く、いつが昼か夜か判然としない。

こうして幾つかのストーリーが絡み合って進む中で、
いったい、フルダという主人公はどういう人間だったのか、はたして彼女が自分で思っているような人間だったのかという問いが浮かんでくる。

ここでネタバレになってしまうが、
実は、この小説のタイトルである「闇という名の娘」というのは、フルダの娘のことなのである。
だが、本当に闇だったのは誰なのか?

この本の帯に
”誰もが想像できない結末ー「この読後感のストレスは、なんだ!?」”と書かれている。

たしかに。
新型コロナの脅威にさらされながら、閉じ込められた状況で読むには、少々重すぎる物語ではあるかもしれない。
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