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映画をめぐる小説から、小説家ができるまでの話 [本と映画のはなし]

本屋で『キネマの神様』(文春文庫)というタイトルに惹かれて買って読んだ。
作者は原田マハ。この人の小説は初めて。フリーのキュレーター、カルチャーライターとある。

ふ~んと思い、公式サイトのプロフィールhttp://haradamaha.com/profile/をのぞいてみてびっくり。
原田宗典の妹なのね。
おまけに、このプロフィールがまた、波乱万丈、面白かった。この年表だけで小説になっている。
あんまりおもしろいのでちょっと紹介しよう。

関西学院大学文学部ドイツ文学科に入学したものの、あまりにもドイツ語ができなくて日本文学科に転科というところからしておかしいが、就職活動の足しにとグラフィックデザインの専門学校に通い、友人と二人で少女漫画を投稿したり、上京して広告プロダクション2か所(!?)に就職するも、あまりの激務で退職したり。

もともと好きだった現代アートの世界にめざめ、独学で現代アートを学んだ。この頃、「資金も才能もないのに「ニューヨークへ留学>キャリアアップ」の妄想にかられる」と書かれていて笑う。

でも2年後には、「原宿でたまたま通りすがりにオープンの準備をしていた『マリムラ美術館』(現在は閉館)に行き当たり、飛びこみで「雇ってください」と訴える。その度胸を買われて、まんまと就職。美術展の展示、コレクションの管理、広報、受付と幅広い活動をし、美術館の実務を経験」
とあり、度胸と行動力には驚嘆するばかり。これがキュレーターへの道の第1歩となる。

その後、結婚、退職し、アートマネジメント学校のディレクターとなるが、ボランティア並みの薄給に、たまたま視察に来た伊藤忠商事の社員に売り込み、度胸でめでたく伊藤忠商事に中途入社。新規事業開発室という部署で全国の地方自治体や企業の「アート、文化に関するコンサルティング」の仕事を始める。

そこで森ビルの社長と会って、チーフコンサルタントとして「森美術館」の構想策定に乗り出す。
何事も度胸だ。

だが、そこで満足しないのが、原田マハ。

「美術コンサルタントもいいけれど、いつかキュレーターになりたい…」と思い立ち、猛勉強の末、40倍の倍率を潜り抜け、早稲田大学第2文学部美術史科に学士入学。
働きながら念願の学芸員の資格を得て、森ビルに転職。森美術館の設立にかかわるかたわら、森社長夫妻のお供で世界中の美術館を見て回り、世界中のアートセレブと会う。何事も度胸だ。

しかし、森社長に「あなたの英語は下町英語(ブロークンイングリッシュのこと)だね」と指摘され、通訳学校に行きなさいと指示される。
そこで、またもや人生最大量の英語の猛勉強をし、ビジネス通訳初級を獲得。ニューヨーク近代美術館(MoMA)と森美術館が提携したのを機に、6か月間ニューヨークのMoMAインターナショナルプログラムに所属し、美術館の仕組みなどについて学ぶ。

なおも、ここで満足しないのが原田マハ。

「女の人生は40代がプライム。いちばんやりたいことを40代でなしとげる」と、またもや度胸で退職。実はなんの展望もなかったが、直観だけで独立。都市の再生プロジェクト「Rプロジェクト」に参加する。

ここからカルチャーライターとしての第2、第3(?)の人生が始まるのだが、まだ小説家としてスタートするまでには時間がある。

角川書店の編集者に勧められて、たまたま沖縄の女性社長をインタビューすることになり、現地でたまたま勧められて寄った島の浜辺で遊ぶ男性とラブラドール犬に出会う。

そこはこのライフヒストリーのハイライトだから、そのまま紹介しよう。

もちまえの好奇心から、「何て名前のワンちゃんですか」と聞いたところが、「カフーっていうんです」と。「どう言う意味ですか?」「沖縄の言葉で、『幸せ』という意味です」・・・・・・。
その瞬間、何かが、どーんと下りてきた。沖縄の離島の浜辺で、幸せという名の犬に出会ってしまった・・・・・。
帰りのレンタカーの中で、すっかり小説のプロットができあがっていた。

もし、あの犬の名前が「シーサー」だったら、小説を書くことはなかっただろう。飼い主の名嘉民雄さんの名付けセンスに感謝。

そして書きあがったのが、『カフーを待ちわびて』。これで日本ラブストーリー大賞を受賞。晴れて小説家デビューを果たす。

そして、最後にこう締めくくる。

ここまで書いて、わが人生のキーワードは「度胸と直感」だとわかった。

ふう。
作者のプロフィール紹介で、肝心の『キネマの神様』までなかなか行きつかない。
まあ、彼女をほうふつとさせる主人公とだけ書いておこう。

でも、彼女の来歴には森ビル社長をはじめ、世界のセレブがたくさん登場するが、こちらの小説はといえば、主人公は一流企業を首になったOLだし、父親はアルコール依存症で今は夫婦でマンションの管理人をやっているとか、引きこもりのITオタクだとか、廃刊寸前の映画雑誌の出版社だとか、閉館寸前の名画座の支配人だとか、いたってさえない庶民ばかり。まるで陰と陽の違いみたい。

でも、映画が大好きな人たちばかり。
読んでいて、やっぱり映画は大きいスクリーンで見なきゃと思う。
今どきのシネマコンプレックスの画面は小さくて物足りない。

10月26日に英国はロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで映画『007/スペクター』のロイヤル・ワールド・プレミアが、チャールズ王子とキャサリン妃の臨席のもと開催されたというニュースを見ると、その画面の巨大なこと!一度は見てみたいな。

ところで、この小説の解説を片桐はいりが書いている。

彼女も映画好きが高じて、学生時代から足掛け7年、シネスイッチ銀座でチケットのもぎりをやっていたそうだ。(原田マハさんも学生時代に映画館のもぎりをやっていたという。)
シネスイッチは、『ニュー・シネマ・パラダイス』を単館で公開したところ。
この映画こそが、映画好きの世界そのものを描いた、この小説を象徴する映画なのだ。

ところで以前、BSか何かで、映画の編集についての番組があり、
この『ニュー・シネマ・パラダイス』を題材に、これを映画をめぐる物語として編集したバージョンと、恋愛ドラマとして編集したバージョンの2つを紹介し、あの有名な終わりのシーンがどう違ってくるかということを見せていて、とても面白かった。
編集の仕方一つで、まったく違った映画になるのだ。

かつて勤めていた精神科病院で、患者さんたちが自分たちの入院生活を題材に、ドキュメンタリーの8ミリ映画を製作したことを思い出した。私も若かったなあ。

やっぱり映画はいいなあ。

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